巻頭言

       ネガティブにならないためにありがとうから始める

                     二戸医師会 会長 横森 浩道

日常の診療現場においては、患者との間に、あるいは職員との間にささいなきっかけからマイナス感情・ネガティブ感情が頭をもたげてくることがあり、そんな感情が言葉に出てしまって相手に不快な思いをさせたり、自分自身でもネガティブ感情を引きずってしまったりストレスを感じたりすることがあります。

昨年の開業医部会従業員研修会で県立中央病院でハラスメント防止対策委員会委員長を務められている大浦裕之先生をお招きし、『医療従事者が覚えておきたい怒りの手放し方』という講演をお聞きしました。その中で特に私に印象的であったことについて書いてみたいと思います。医療現場(に限らない?)での怒りの発生を簡単に言えば、自分はこうあるべきと認識していること(着火石)が、現実に裏切られた時(火花が散る)に、ネガティブ・マイナス感情(燃料)が加わって怒りになるということなのだそうです。講演はとてもわかりやすく、有益なものでした。講演の最後に先生は、怒りから自由になるには相手に感謝の気持ちを持てればいいと考えています。なぜなら感謝からは怒りは出てきませんから。そのような境地を目指していますというような趣旨のお話をされ多のですが、そこが私にはとても印象的に感じられ、ぜひ実践してみようと決意しました。

 まず対患者編です。いかなる受診の形であれ、まずは感謝から入ります。「2年ぶりですね。今日は来てくれてありがとう。そうですか、調子は良くないのですね。」というふうに。全てを言葉にせず、頭の中で言う場合もあります。どうしてまた……というような否定的な言い方はしません。あくまで自分のネガティブ感情を許さないためです。そして今後の治療のことを話します。

 次に対スタッフ編。医師というのは、一緒に働くスタッフに対して、こうして欲しい、こうするべき、いつもそう言ってるでしょう、というような着火石をたくさん持ちがちです。スタッフ一人ひとりについて、それぞれ良いところ、感謝している点についてまとめました。それを頭に入れました。何かひとことふたこと言いたい場面になった時、ひと呼吸置いてまずその人の良い点・感謝してる点を復唱します。…20年も一緒に働いてくれてる人、いつも朗らかで、患者にも親切な人…。その上で言いたいことをネガティブ感情なしに伝えます。

 以上二点ですが、実践するのはそれほど難しいものではないと感じました。心がけと少しの努力です。そして結果はと言えば、あくまで個人レベルの範囲ですが、ネガティブ感情に支配される時間が少なくなり、随分気持が楽になるものだなあと実感します。対患者と対職員の実践でしたが、これを自分の周りでさらに広げていけばいいかなと考えています。